第8話「ダイビング トゥ アース」

















仮初めの暗黒が見える。
どこまでも遠い暗黒。
いつから、そしていつまで見えているのか分からない。
そして、なぜ仮初めなのか。
理由は簡単だ。
目を閉じているからである。
ふとコンソールからアラームが鳴り出した。
コクピット内の人影、進堂輝羅はゆっくり目を開けコンソールのスイッチを入れた。

『輝羅君・・・・』
「美由・・・・」

コンソールに映されたのはノーマルスーツを着た美由だ。

『輝羅君、最近変だよ?』

顔を合わせて早々、痛い所を突かれた。

「そう・・・・・・?」
『うん。なんか、悩んでるみたいだし、私でよければ相談してくれるかな?』

そう言われ苦笑いになる。
たしかに良い相談相手にはなってくれるが、そんな気にはなれなかった。
その内にまた、もとの表情に戻る。
美由が見かねていると、もう一つ通信が割り込んできた。

『はいはい、通常回線なんだから二人の世界はその辺りまでね。』
『み、美坂少尉!?』

通信に割り込んで来たのは、パイロットスーツを着た人だった。
ヘルメットで髪型は分からないが、顔つきと声から女性というのは分かる。

『美坂少尉、ノリノリですね・・・』
『さっきまでそんな世界を見せ付けられて、よく言うわね。』

彼女のハイテンション振りに、二人はため息を吐く。
輝羅はふと数日前のことを思い出してみた。
















「地球に、下りる・・・・・?」
「そうだ。」

呆然と繰り返す輝羅に、祐一はキッパリと言った。

「なんでまた急に・・・それも地球なんて・・・」
「それはだな・・・」
「それに関しては僕から話そう。」

急に声がした方を向くと、ジェノスが立っていた。

「ジェノス・・・」
「いいでしょ?」
「・・・・・・・・・・わかった。」

祐一は少し考えたが、アッサリ場所を譲った。

「現在、ティターンズの勢力は宇宙に伸展しているものの、まだまだ地球の方が多い。」

周囲に作業音がしている中で、三人は聞き入っている。

「で、僕の会社が経営している工場はここだけではなく、実は地球にも一つあるんだ。」

その辺りで美由が手を上げる。

「あの、そうなるともしかして・・・」
「そう。その工場の防衛戦力になってもらいたいんだよ。」

顔を見合わせる。

「まあ、工場って言っても離れ小島に建設された物だけどね。もちろんこれは水瀬中将も承認してくださっている。整備は出来る限りで切り上げて、明後日の作戦に間に合わせて欲しい。」

三人とも腑に落ちない顔をしている。

「まいったな。さすがにこんな理由じゃ納得できないか。」

ジェノスは頭を掻きながらぼやく。

「あら、もう説明は始めてたのですか?」

不意に別方向から声がした。
その方向を向くと声の主らしき女性が立っていた。
こちらも翼に負けす劣らず美人であった。
彼女を見るや否や、ジェノス以外の軍人は敬礼をした。
輝羅も慌てて遅れながらも敬礼する。

「ここでやっていたんですね。てっきりブリーフィングルームかと思いました。」
「こちらこそ、申し訳ありません。事前に連絡できればよかったんですが・・・」
「いえ、間に合ったのなら良かったです。」

誰でも受け入れそうな笑顔を振りまきながら、話す。
突然その女性は祐一の方を向く。

「無事帰ってきてくれて安心しましたよ、相沢少佐?」
「・・・・・・・ただいま帰還しました、水瀬中将。」

祐一の言葉に、輝羅は小さく驚く。

「あの人が水瀬中将なの?」
「そうだよ。水瀬秋子中将殿。話には聞いてたけど生で見るのは私も始めてだよ。」

輝羅と美由の会話に、祐一は視線を向ける。
それに気付くと、すぐさまやめて気を付けの体勢に戻った。

「それで、話はどこまで?」
「内容を軽く、です。」
「なら、そのまま続けてくださって結構ですよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

コホン、と咳払いをしてから向き直る。

「場所は北アフリカ、メルリル湖より東のカナリア諸島、ゴメラ島だ。明後日の大気圏突入に合わせて、アフラマズダには特別仕様のバリュートを装備。それと補充MS及びパイロットだね。確かパイロットは・・・・」

ジェノスは辺りを見回す。
目的の人を見つけたのか、軽く手を振る。
手を振った方向からパイロットスーツ姿の女性が走ってきた。

「紹介しとこう。彼女は、君達の艦に配属が決まったみ「祐一さん!!」」

ジェノスの言葉遮られ、さらに走ってきた女性はあろう事か、祐一に抱きついた。

「祐一さん、ずっと会いたかったんですよ?」
「っと、久しぶりだな、栞。」

栞と呼ばれた女性を引き剥がしながら、祐一は応える。

「ぶ〜、久しぶりのに冷たいです。」

引き剥がされ、栞は口を尖らせる。
不意に舞の方を向く。

「舞さんも、久しぶりですね。」
「はちみつくまさん、久しぶり。」
「どうでもいいが、水瀬中将が見えてるんだぞ?」
「ウソ!?」

あわてて服装を直し、秋子の方を向き敬礼をする。

「失礼しました、中将殿。」
「いえ、美坂少尉もお久しぶりです。」
「はい。」

立場は弁えているが、まるで知人同士のような挨拶を交わす。

「皆さんにも紹介しておきますね。今回配属になる美坂栞少尉よ。」
「美坂栞。階級は少尉。よろしくお願いします。」

美由と輝羅に向かって敬礼をする。
二人も同じように敬礼をして応えた。

「あ〜、続けても構わないでしょうか?」
「あ、すみません。どうぞ続けてください。」

一瞬立場の無かったジェノスだが、再び喋り出した。

「あと、補充MSは川澄中尉、美坂少尉の両名にリックディアスを一機ずつ、後はGライクスを一機とゲタを一機、以上だ。作戦までに搬入とバリュート取り付けはしておく。今日はここまで足を運んでもらって、ご苦労だったね。」
「整備が整い次第、艦に戻るぞ。各自解散。」

ジェノスが喋り終わり祐一が解散命令を出すと、各々散っていき、そこには祐一と秋子だけが残った。
祐一は一息吐くと、秋子の方へ向き直る。

「久しぶりですね、秋子さん。」
「はい、お久しぶりですね、祐一さん。」

知り合いのような挨拶を交わす。

「首尾はどうですか?」
「思わしくありませんね。だからこそ今回の“ジャブローの風”作戦は何とか成功させたいのですが・・・」
「妨害がある・・・と言うことですか?」
「はい。本来はそちらに回ってもらいたかったんですが。」
「仕方ありませんよ、スポンサーですから。」
「ええ、そうですね。」

しばらく会話が途切れる。

「まだ、名雪のことを想ってるんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」

秋子の問いに祐一は答えない。

「そろそろ、新しい人を見つけた方が・・・」
「っ、実の娘のことなのに、なぜそのようなことを言うんですか?」

秋子が言いかけた言葉を、祐一が遮る。

「俺は、あいつが死んだとは思ってはいない。明確な証拠がある訳でもない。」
「ですが、ソーラシステムに巻き込まれたなら・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

秋子が言うことを全て否定する。
秋子も口を止めた。

「・・・・もう、行きます。」

秋子に背を向けると、目の前に輝羅が立っていた。

「・・・・・・・・・・・・・」
「あ・・・・・あの、盗み聞きするつもりじゃ・・・」
「関係の無い事だ、忘れろ。」

そう言って、去っていった。




















そこで回想をやめる。
先程まで、微かに耳に入っていた雑談も止んでいた。
何をするわけでもなくコンソールを眺めていると、急に悪寒が走った。

(何だ、このプレッシャーみたいのは・・・・・・)

しばらく考え込むが、すぐ意識を戻しコンソールを開こうとした時には、既に第一戦闘配備が発令されていた。
サイレンがけたたましくなっているのを聞きながらも、コンソールを開く。







アフラマズダ ブリッジ

祐一に注意され、先程とは打って変わって静かだった。
突如、美由の席からアラームが鳴り出した。

「どうした!?」
「5時の方向より敵MA接近!」
「こんなとこまで随分と物好きだな。総員、第一戦闘配備!降下開始までどの位だ?」

祐一の問いに、数秒のタイムラグも感じさせない速さでミアが答える。

「開始まで約6分です。」
「出ても最大で11分程か・・・」
『自分が出ます。』

輝羅がコンソールから名乗りを上げた。

「正気か、お前?」
『こんな所で死ぬのは御免です!それに10分だけなら粘ってみせます!」

祐一は少し悩んでから、輝羅に指示を出す。

「わかった、発進を許可する。時間は10分だ。それまで艦に近づけさせなければいい。無理はするんじゃないぞ!」
『了解。』

輝羅の返事と共に、コンソールが切れる。
と、同時に祐一は新たな指示を出していた。

「ハッチ開けろ、出すのはクロスだけだ!それとカタパルトにドダイを用意しとけ!」

一変して慌しくなったブリッジの中で、祐一の脳裏には一つの想いがあった。

(墜されるなよ。もう仲間ご目の前で死んでくのは御免なんだからな!)












発進後、輝羅はすぐ目的の機影を捉えた。

「あれ、か・・・・」

紫系統の色で統一された機体は、まっすぐこちらを見据えたまま動かない。

(あの機体、どこかで・・・)

そう思い、キーボードを叩き、先日更新されたデータベースを漁る。
特徴的な機体なので、すぐにデータが出てきた。

PMX−000 メッサーラ

データを一通り見た後、ハッとして前を向きなおす。
数分あったにも関わらず、メッサーラは微動だにしていなかった。

「余裕につもりなのか?舐めたマネを!」

先手必勝の如くビームライフルを撃つ。
横にスライドして回避した紫の機体は、簡単なフォームで右腕のグレネード弾を一発、発射した。
同じく横に回避しながらビームライフルを撃つ。
そんなやり取りがしばらく繰り返された。

(おかしい。)

同じ行動の繰り返しの中、輝羅の脳裏にふと疑問が浮かんだ。

(あの機体、データではメガ粒子砲まで積んでるらしいが、使う気配が全くない。)

輝羅の思う通り、対峙するメッサーラは、先程から腕部のグレネードランチャーと肩部のミサイルランチャーしか使用していない。
そこから輝羅が辿り着いた結論は一つ。

(手加減されてる・・・)

そう考えてるうちに、突如機体に振動が走った。
慌てて前を向くと、既に目の前までビームサーベルを抜いたメッサーラが接近していた。
咄嗟にシールドでガードするが、もう片方の腕から展開されたクローによって、打撃を食らう。
PS装甲により機体そのものにダメージはなかったが、かなりの距離が置かれる。

「くっ、これが相手の本気か!?」

ビームライルで応戦するが、ろくに狙いもつけていないのでそうそう当たりはしない。
ただ、メッサーラの行動にも変化があり、全く反撃をせず、回避に専念していた。

「本気でやってるのか?だけど・・・」

サイトを展開させ、機体も左手でビームライフルのグリップを握らせる。

「次で当てる!」

狙撃の体勢にしてからサイトを覗き狙いをつける。
二つの円が一瞬交わりかけたが、照準が完了した音が鳴らなかった。
交わりかけた円はどんどん離れていく。
それどころか、グリップに微細な振動を感じ始めた。
振動はさらの大きくなり、コクピット内部の温度も上昇し始めた。

「まさか・・・・大気圏に突入している!?」

スラスターを全開にするが焼け石に水程の効果すらない。
慌ててサイトを退けるが、既にメッサーラの接近を許していた。
右腕のクローを展開し、ストレートを打ち込んでくる。

「くっ、ああっ!」

メッサーラは更なる追撃を仕掛けようと、ビームサーベルを展開し接近する。
クロスガンダムも左手にビームサーベルを持ち、受けの構えを取った。

「やられるか!!」

最初は互角に思えた斬り合いも、いつしかメッサーラの優勢になりはじめた。

(だめだ、プレッシャーに押されてうまくコントロールできない。)

その思考が一瞬の隙を生んだのか、再びクローで殴り飛ばされた。
トドメを刺そうとバックパックをクロスガンダムの方へ向ける。

(終わった!?)

そんな言葉が脳裏を過ぎった瞬間、一條の閃光がメッサーラを掠った。

「この光、一体誰が?」

閃光が放たれた方を見ると、アフラマズダのカタパルトにリック・ディアスが一機、大型のビームランチャーを構えていた。

『輝羅君、援護するから隙を見て攻撃してね。』
「美坂少尉!?」

リック・ディアスの大型ランチャーから、何発ものビームが発射される。
メッサーラはギリギリで回避していた。

(いい腕をしているな。)

突然、メッサーラを襲っていたビームの嵐が止んだ。
しかし、その一瞬の隙はクロスガンダムが接近するには十分な程だった。

「喰らえー!!!」

動揺した隙をついて、クロスガンダムは右腕を斬る。
スラスターを使って一旦距離をとるメッサーラ。
不意に輝羅のコンソールに通信が入った。

『所詮この程度か、たとえ“調整された者”でも』
「えっ・・・・?」

一瞬動揺したが、その隙が命取りだった。
輝羅が意識を戻すのと同時に、両脇を光る何かが通過していった。
迷っているうちに、栞から通信が入る。

『輝羅君、アフラマズダが直撃受けちゃったよ!!』
「えっ、あっ!」

あたふたしていると前方から敵機接近のアラームが鳴った。
一寸の隙が命取りとなり、メッサーラがクロスガンダムを下方へ蹴り落とす。
体勢を直し反撃するためにスロットルを全開にするが、機体はメッサーラに近づくどころかどんどん地球へと引っ張られていった。







アフラマズダ ブリッジ

「メインスラスター2基破損、ミノフスキークラフト中破!」
「消火班向かわせろ!バリュートの破損は!?」
「大丈夫です、全基オールグリーンです!」
「艦長!クロスガンダムが大気圏に突入しています!」

焦るミアとは対照的に、それを聞いた祐一は冷静に対処する。
その顔には不適な笑みまで浮かび上がってそうな程だった。

「やっぱりな、用意しといた甲斐あったぞ。ドダイを射出しろ!目標はクロスガンダムだ!高崎、敵の動きは!?」
「はい。・・・・うそ、この宙域から離脱しています・・・」
「この位置まで落ちてか?どんな推進力だよ?」

半ば呆れ顔になるが、すぐに振り切り再び指示をだす。

「リック・ディアスを収容しろ、バリュート展開を急げ!」
「艦長!」

クルーの一人が艦長を呼ぶ。

「どうした!?」
「大変です!このままだと、クロスガンダムと着地地点に大きなズレが生じます!」
「ならクロスガンダムと同じ位置まで移動させろ!この艦ならまだ可能だろ!」
「しかし!」
「見殺しにする訳にはいかないだろ!!」
「っ・・・・了解。」

大気圏に引き込まれながらも、クロスガンダムの上に移動する。

「移動できました。」
「バリュート展開!」
「バリュート展開完了、各部異常なし。」

祐一はホッとしてシートに背を預ける。








「だめだ、これ以上は・・・・」

いくらスロットルを全開にしても引き込まれていく一方だった。
エールパックも溶解を始め、バッテリーも限界を迎えていた。

「え、あれ・・・こっちに近づいてくる?」

始めはレーダーに映った機影はすぐ肉眼で確認出来る程になった。

「ドダイ・・・フライングアーマーか!」

すぐさま近づいてきたフライングアーマーに乗り、バランスを調整する。
サウナのように熱かったコクピット内も、摩擦熱が遮られ幾分か涼しくなった。
さらに半分程溶解したエールパックも切り離す。

(後は・・・どうにでもなれ。)

そう思い正面モニターを見やる。
しばらくして、先程までモニターを染めていた赤い靄が消え始め、地表がはっきり見え始めた。

(これが・・・地球・・・。)

真っ青の海に茶色や緑、灰色の大地が広がっている。
神秘的な光景に、輝羅は見入っていた。
(すごい、地球ってこんなに綺麗なんだ。)

クロスガンダムを乗せたフライングアーマーは、徐々に砂の大地へと落下していった。

さらにその後部にアフラマズダが後を追っていた。


























とある艦の一室。
質素ながらも、必要以上の飾りがしてある部屋の机で男が一枚の書類を見ている。
机の方にも何枚も散らばっているが、男はそれ以外興味を示さなかった。
不意にその部屋のドアが開く。

「父さん。」

ティターンズの制服を着た少年が入ってきた。
歳は15か16。
まだ少しばかり幼さの残る顔立ちは、薄い笑みを浮かべている。

「やあ、おかえり。」

男は書類を見るのをやめ、机から立ち上がり少年の方へ近づいて行った。

「父さん、会ってきたよ、僕の元型に。」
「ほぅ、どうだった?」
「父さんが言ってた通り、普通じゃなかったね。地球に降りたからしばらく遊べないけど、どうせ使えなくなったら捨てちゃうし。」
「・・・・」

少年の方は嬉々として話すが、男の方の表情は変わらなかった。

「それじゃあ、この後ブリーフィングがあるんだ。」
「ああ、行って来い。」
「うん!」

そういって、少年は扉の向こうへと消えた。
残った男はしばらく考え込んだ後、机に戻り再び書類を手に取った。

「くくっ、ついに見つけたか。」

ついに表情が変わった。
その笑みは先程少年がしていたものではなく、狂喜に酔ったものだった。
一枚の書類を握り締めて。

「さあ、ついに結果が現れるぞ!貴様達の成果と、私の成果が!」

恍惚の笑いだけが、木霊する。

















続く・・・
























あとがきです。

えー、まず最初に言うべきは、申し訳ありません。

また三ヶ月も停滞してしまいました。

性格上言い訳なんかせず、素直に認めます。

で、本編なんですが、黒幕っぽいのを登場させてみました。

ま、読んでてお約束なパターンなのですぐにわかるとおもいます。

この後は、SEEDに似ているようで微妙に違うストーリー展開にしてこうと思っています。

では。







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